冬の音 [散文詩]
工場地帯を通り抜けると
人通りのない坂道に出た
落ちていた空き缶を蹴飛ばすと
一人ぼっちの冬の音がした
終わることを望んでいたのは
僕の方ではなかったのか
あと一時間もすれば日が暮れる
だんだんと影が伸びていく
光線と思い出 [散文詩]
夕方の風に紛れて
また横を通り過ぎていったね
大丈夫 もう目を奪われたりはしない
久しぶりに通る道は
記憶の中と変わらない景色
振り向けば一瞬見えるかもしれない
あの頃の僕も
あいつの姿も
でも全ては手遅れで
届かないことを知ってしまった
11月24日の散文 [散文詩]
僕を振り回すモノの正体は
いつだって形のない
目に見えないものばかりなんだ
それがいつやってくるか
どこからやってくるのか
わからないから不安なんだよ
空っぽのコーヒーカップ
いつ飲み終えたっけな
乾燥した部屋の中で
聞き憶えのない音がしている
壁のポスターがなんだか
少しだけ傾いている気がする
カーテンの隙間から
いつかの夜が覗いている
古いアルバムを見たら
胸がいっぱいになってしまったんだ
色んなことを次々と考えてしまったから
また今夜も眠れないだろう
さっきまでざわついていた周囲が
急に静かになった時のような
気味が悪い感覚がずっと続いているから
何だか声を出すことがいけないことのような気がして
じっと黙ってた
ソファーの下の埃が気になりだした
いけない兆候だこれは
こんな時は部屋を飛び出して
あてもなく近所をぶらついて
少し疲れたくらいで帰ってくるのがちょうどいい
僕を振り回すモノの正体は
いつだって形のない
目に見えないものばかりなんだ
寂しい冬がもうすぐやってくる
心が冬をのりきるためには
僕のコートではダメみたいだ
変な色の蟲がいる
商店街にはもう昼間の熱は残っていなかった
シャッターの閉じた店々の前を
小さく歌を口ずさみながら歩いていく
歌声はすぐに風に溶けて
僕の後ろ(過去)へと流されていく
自動販売機の明かりに吸い寄せられて
気付いたら120円を入れていた
暖かい缶をポケットに入れて
いつもの部屋へ帰るとしよう
昔の記憶をたどってみた
保育園 小学校 中学校 高校
片時も僕から目を離さずにいたのは
どう考えたって僕だけだったね
あと何年、僕は僕でいられるのだろう
この冬が終われば
また僕はひとつ歳をとる
ある物語 [散文詩]
もっている人と、もっていない人がいた。
もっていない人は、いつももっている人がうらやましかった。
もっている人は、自分がもっている人だと気づいていなかった。
もっていない人は、いつも悲しかった。
もっている人は、もっていない人がすきだった。
もっていない人は、もっている人になりたかった。
もっている人が欲しいものは、もっていない人が持っていた。
循環する思考 [散文詩]
あの丘の上だけ夜になったよ
緑が痛いくらいに萌えている街の午後
両手で耳を塞いで大声で
叫んだ声は季節を越えていく
アスファルトと僕と
僕になれない無数の感情が
たどり着いたのは赤紫色の空
誰も知らない物語 [散文詩]
男が居た
木を植えた
毎日木を見てた
やがて木は実をつけた
風が吹いた
実は全部落ちた
男が居た
花の種を植えた
毎日水をやった
やがて赤い花が咲いた
雨が降った
花は流された
男が居た
絵を描いた
部屋の一番いい場所に飾った
やがて木は実をつけた
やがて赤い花が咲いた
それでも男は
絵を眺めていた
あの季節がまたやってくる [散文詩]
また夏が来るね
もうこれで何度目の夏だろうね
これから暑くなるね
いろんなこと 思い出すね
若かったね
楽しかったね
風が気持ちよかったね
ずいぶん昔のことのようだね
何度 夢とサヨナラしただろうね
少し臆病になったかもね
言い訳が増えたね
忘れられないこと 多すぎるよね
夏生まれの友人に送った詩です。
謝罪 [散文詩]
いつも前だけ向いて走っていた
公園ではいつも誰かが待っていた
大声を出せば何かが始まった
ドロだらけの顔で笑った
自転車のペダルを思い切りこげば
地平線まで行けるような気がしていた
仲直りできて嬉しかった
宝物が毎日増えていった
見えなくなるまでボールを蹴った
星の数だけやりたい事があった
夏の終わりの夕暮れ 冬の朝の真っ白な息
季節の中で生きていた
ごめん 本当にごめん
今の僕をゆるしてくれ
帰り道に吹いた口笛のメロディーは
まだちゃんと憶えているんだ